火曜日:古着屋めぐり

 ジョージは悩んでいた。そろそろ外に着て行く服が無くなってしまうのだ。今までは、大学に入った頃に一気に買った服を騙し騙し着ながら過ごして来た。時にはコーディネートを変え、ある時には破いたり塗装したりしながら、ある時は小物を工夫して違った雰囲気を醸し出したりして、何とか大学生活を送っていたのだ。

 しかし3年も経つと、さすがに限界がやってくる。洗濯の繰り返しによるよれや、長く履き続けたパンツの擦れの悪化、そもそも飽きがやって来る。就職活動を挟んでしまった結果、最近は服への興味自体も薄れてしまっていた。しかし吉子からついに、いつも同じ服を着ていることを指摘されてしまう。これではいけない、吉子からしてもダサい彼氏など御免被りたいだろう。捨てられてしまってからでは遅いのだ。何とか自分改革を断行しよう。

 しかし大きな問題がある。根本的に金がないのだ。服を買いすぎてデートのお金が無くなってしまっては元も子もない。盗むわけにもいかない。盗人とも何もできない貧乏人とも付き合っていて楽しい女性はいない、少なくとも成蹊には。

 30分近く座禅を組み、軽く悟りを開くくらいに悩んだ結果、ジョージは一つの結論に行き着いた。古着だ。新品を買うなどと、セレブな考えを持っているから駄目なのだ。学生は学生らしく、多くの店を回って悩みながら至極の一品を選び抜くのがベストな道だろう。幸いなことに、吉祥寺には多くの古着屋があることで有名だ(要出典)。早速ジョージは街へと足を向けた。

 まず最初に向かったのは、井の頭公園近くにあるフラミンゴというお店。元々はcabwebというビンテージ物に特化したお店であったが、下北沢にある系列店に統一され、アメリカから直に輸入した品物を揃えるお店へと変貌した。店はアンティーク調に統一され、男物と女物で店が二分されている。床も板張りで、全体的に白を基調とした内装は本当にお洒落なのだが、なにより店頭に立っているE.Tの巨大な人形に圧倒されるのが印象的だ…

 古着だけあって、値段はなかなかお手頃である。お店の人が他の古着屋よりも安いはずだと豪語するだけはある。これならジョージも無理なくイケメンに変身できるはずだ。しかし、若い人たちが友人を連れ立ってやってくるのは納得できるが、中には小さい子を連れたお父さんらしき男性や、スーツを着たサラリーマン風の男性、はたまた年配の方までいるのはどういうことなのだろうか。彼らも古着に興味のある老若男女の一部ということか。しかしこれには、このお店が買取をしていることにも関係があるらしい。昔古着に興味のあった人が、年をとってから使わなくなった価値の高い古着を売りにくるという。それをまた、古着に興味を持ち始めた若い人たちが買うのだという。なるほど、そうして古着は新たな世代へと循環していくのだろう。今俺が買った古着も、かつて誰かに着られて、また他の誰かに受け継がれていくのかもしれない。何だか嬉しくなるではないか、他の人の思い出を身にまとっているみたいで。

 レディースの質の良さ、買い付け時からのサイズへのこだわりを見せるこのフラミンゴは、グループ系列店の中でもトップクラスの品質を誇る製品を集めているという。またちょくちょく覗きに来よう、と思いながら、ジョージは店を後にした。

 

フラミンゴからの帰り道、南口付近に差し掛かると「USED CLOTHING nico」という看板を見かけた。足取りは自然と、その店へと歩みだしていた。古本屋の2階、薄暗いムーディーな店内にたどり着いた。

立ち込める古着の香りと、立ち並ぶ古着、奇抜なイメージを持っていたジョージはそのシンプルでオシャレな古着の雰囲気に一瞬で飲み込まれていった。

ジョージの目に映るアメリカ古着とヨーロッパ古着。シックで洗練されたスタイルが脳に浮かぶ。ジャンルにこだわりはないようで、多種多様な古着が並び、ひとつひとつ見ていくのが楽しい。

中央のケースにはアクセサリー品があった。こちらも黒や茶の小物がそろい、少し大人を気取りたい気持ちのジョージはそのケースをしばし眺めていた。

あまりにもじっと見ているので、店員さんに話しかけられた。話は弾み、この店の話へと進んだ。

nico」は立川から2号店としてできたらしい。吉祥寺も数多くの古着屋が出店している街、しかし、南口の古着が集中する通りからはいくらか離れていた。理由を聞いてみると、吉祥寺の他の古着店と離れているのは客が拾いやすいからだとか。

 コンセプトはジャンレス、様々な種類の商品をそろえ、幅広い客層に対応できるようになっている。

大学生や20代をターゲットとしていて、古着古着せず、落ち着いた雰囲気を持っている。古着やながらメインはオリジナルで、凝ったつくりと、細かいディテールに古着っぽさが見られる。

オススメはこのパーカーだそうだ。

 オススメと聞いて黙っているわけにはいかない。ジョージは試着を済ませるとすぐさま会計へと足を運んだ。金に余裕がないのは、欲しいと思ったものをすぐ買ってしまうからだろうか。それでもひとつ何かを得るたび、ジョージの心は満たされていく。

 

 二つの古着屋を巡り、少ない予算で多くのおしゃれ素材を手に入れたジョージ。古着は多くの人に受け継がれて、また新たな歴史を作っていく特別なものだという発見もあり、この服でまた吉子と新しい思い出を作っていきたい…そんなことを考えながらも、新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、古着の入った袋を覗いては何度もニヤニヤしながら帰っていく。変質者に間違われ、職質を受けるというおまけが最後に待ち受けていたのだが…