吉祥寺人 : 河田悠三さん(4ひきのねこ オーナー)




■花散る前の色気
花が散る直前に、言いようのない色気を感じたことがあるだろうか。
「花は咲いて、散るためにある」と河田さんは云う。
そしてまた河田さんは、花は枯れるためにあるからこそ、「僕たちの役目は、枯れてゆく花たちを、いかに花らしくするか」ということだと云う。その言葉は、まるで哲学者のようであり、悟りを開いた僧侶のような響きを持っていた。
自然界の花たちは、土に根を張り、水や養分を吸い上げる頑丈な茎を持っている。花を咲かせることは、種を付け、後世に子孫を残すための大切な任務である。甘い蜜に寄る虫たちの手助けで、おしべとめしべが受粉し、新しい生命が生まれる。言ってみれば、花が散るということは、新たな「生」へのはじまりなのである。
しかし、花屋で売られる切り花は、受粉することも、種を実らすこともできない。この「生」のリレーに参加できないのだ。

「そのつぐないと言っては何だけれど、僕はここに置いてある花たちを、自然に咲いている花より、花らしくする責任がある」

最後の花びらが散る、その一瞬まで、魅力的に生きさせてあげたい。きっと、河田さんは花たちと関わる上で、花の生き方と散り方を、常に心に銘じているのだろう。
だからだろうか。
「4ひきのねこ」に置いてある花たちは、みずみずしい生命感にあふれ、妙に艶めかしく、やたらと色っぽいのだ。



■町の郵便局のような存在になりたい

現在、「4ひきのねこ」が位置する場所は、両側に衣料品店"TIGER MAMA"と木材屋さん、向かいには昔ながらの魚屋さんがある。夕方になると、魚屋さんで焼かれる、香ばしいゆうげ用の焼き魚の匂いが、店先に流れ込んでくる。

「よくね、花を買いに来たお客さんに『せっかく(花の)いい香りがするのに、魚屋さんの匂いがしてきて嫌じゃないんですか?』と訊かれるんです」

河田さんは、ちっとも嫌じゃないという風に、嬉しそうに云う。

「僕は、それが好きだし、事実、こんな風景を求めていたんだよ」


人々の暮らしの中で、人々の生活に関わりながら花を売る。それは、かつて河田さんが描いたアムステルダムの手押しオルガンのような風景だ。今や、河田さんの風景デザインは、次なるステップへと進んでいる。

「この店を、町の郵便屋さんみたいな存在にしたい」

ん?という眼差しを向けると、河田さんは子どもっぽい笑顔を浮かべてこう説明してくれた。どの町にも郵便局はある。手紙を出したり、お金を振り込んだり、いろんな人の生活と密接に関わっている。でも普段は、日常の風景に溶け込みすぎて、当たり前すぎて、その存在すら気にかけることはない。それでも、ないと不便に感じてしまう存在。
突然消えることもなく、当たり前のように存在する郵便局は、待ち合わせの場所になるし、目印にもなる。見知らぬ人に道を尋ねられたとき、「郵便局の角を曲がって左側」といった具合に道案内の手だてにもなる。

「そんなふうに、あって当たり前、と思われるような店。目印になるような店。風景にすっかり溶け込んだ店になれればいいと思っている」

「本町郵便局のポストの前で5時に会おう」と言い合うように、「それじゃ、『4ひきのねこ』の前に6時集合ね!」という声が聞こえる日は、そう遠くないのかもしれない。

(mamigon wrote 2004 June)


新鮮優良生花「4ひきのねこ」DATA
address: 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-28-3
phone: 0422-21-6901
close: Tuesday
access: 吉祥寺北口、大正通りを進み、藤村女子中・高校を過ぎて右手。
 
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