裏 窓 特別編:超大吉旅日記その2「虫を語る那覇の夜」


にぎわう農連市場
うーん、生活するってパワフルだ。



農連市場の午後
ぽよよーんとするのだ・・・・。



民宿のうれん・・・・っていうか、
引っ越ししたてのアパートって感じ?




ゲッチョ先生の骨、骨、骨。



カゴ猫



シュモクザメとのりお


超大吉旅日記 その2 『虫を語る那覇の夜』  by のりお(別名:超大吉)

翌日の南大東出発を記念して乾杯、ということで観光客で大賑わいの国際通りである人と待ち合わせ。知人、盛口満さんと奥様のかこさんとは一昨年南大東島で偶然同じ宿に宿泊・行き帰りの飛行機が一緒ということで仲良くなり、島で一緒に遊んだときからのお付き合い。満さんは生き物や自然に関する本を幾つも出している人で、子供たちからゲッチョ先生の愛称で親しまれています。
『ゲッチョ』とは出身の千葉館山の方言でカマキリを表す『カマゲッチョ』のことで、カマキリに顔が似てるからだとか。
今は関東から沖縄に移り住んで学校で講師をしたり、沖縄の新聞でコラムを書いたりしています。奥様のかこさんは宮古島の民謡の師範代で、三線に歌に踊りの達人。満さんは、前日捕まえてきたスッポンの調教で部屋に籠もっていて外に出られないとのこと。
かこさんと、かこさんの学生時代の友人C先輩と三人、小さな居酒屋でとりあえずのオリオンビールを注文しました。
沖縄で飲むオリオンビールはどうしてこんなに旨いんでしょう。あっという間に二杯三杯。ゴーヤチャンプルー、もずくのてんぷら、島ラッキョ。つまみもとっても美味くて、文句無し。


島酒も登場してほろ酔いになったところで、ゲッチョ先生宅へ移動。
「おうのりすけくん」と出てきた先生を見ると、以前会ったときよりも一段と肌の色が黒い。
まるでビール瓶のような黒さです。千葉県出身の先生ですが、僕から見たら完全にウチナンチュー(沖縄県民)です。
相変わらず先生の家は骨だらけ。ライフワークにしている骨集めのコレクションも相当増えたようです。冷凍庫の中には骨格標本にする前の動物の死骸が一杯だし、普通衣類を置くようなラックにはトドや馬や鹿や牛やネズミなど、いろんな動物の骨達がひしめいていました。
下駄箱には大きなウミガメの甲羅の骨も。奥様の理解無くしては出来ないことです。すばらしい。
先生は骨に関する本も二冊ほど出していて、ちょいと骨を見ただけで何の生き物のどの部分の骨かを一瞬で見分ける骨の達人でもあります。
先生の友達でこれまた昆虫博士のS博士が来ていました。聞けばその日二人で化石採集に出かけたところ、道路に偶然出てきたスッポンの子供を二人で捕まえたのだとか。
飼育ケースの中で、体長8センチほどのスッポンが脱出しようと必死に歩き回っています。
かこさんがすっぽんの「ポンジー」と命名しました。
S博士が透明なビニール袋の中から、生きた小さなバッタを取りだしてスッポンの鼻先に放すと、素早い動きで首を伸ばして捕らえ、美味しそうにかぶりついていました。S博士は昆虫その他の研究者です。自ら手がけたカマドウマ(通称ベンジョコオロギ)の研究論文を見せてくれました。
英語なのでよくわかんなかったですが、雌雄の生殖器についての論文らしいのでした。ベンジョコオロギなんてたいていの女の人は見ただけでひっくり返ると思うんですが、その反面そいつらの股ぐらを専門に調査している人がいるとは。人間というのは奥が深いです。
「爬虫類は餌を食べるまでに、その環境に慣れることができなくって、そのストレスで餌を食わずに飢えて死んでしまう個体が多いんだけどね。こいつはなかなか優秀だよ。図太いやつだ。」といって、嬉しそうにビニール袋から、次の餌になるバッタをつまみ上げていました。
ふいにS博士が柱の一点を凝視したと思うやいなや、柱の表面から何かを指先に捕らえました。テーブルの上に指をそっと移して、1mmもない小さな甲虫を爪で弾いて載せました。
「お、死番虫だね。」とゲッチョ先生が身を乗り出しました。その不吉な名前の虫は欧米ではデス・ウォッチャー(死時計虫)と呼ばれていて、その由来は家屋の木材を食べる際、穴を開けるときにたてる「コツ・コツ・コツ」という音が死への秒読みに聞こえるから名付けられたのだとか(仲間との交信にも使うらしい)。


そういえば、こいつに似たこれまた体長2〜3mmという小ささの『カツオブシムシ』という名前で、鰹節や生き物の剥製なんかを食害する小さな甲虫がいます。そいつがいつだったか僕の使っていたインドの香辛料を食い荒らしてしまったことがあるんです。
ところが僕はそんなことに全く気づかず、長い間それらの香辛料を使って自炊していたわけなんですが、ある日香辛料の入っているビニール袋を持ち上げたところ、香辛料が袋のそこから大量に漏れている事を発見したんです。袋の底を見ると1?ほどの穴がたくさん開いていました。
さらによく見ると、袋の中はいたるところカツオブシムシの成虫・幼虫の死骸と、フンの山だったんです。つまり僕は何ヶ月もの間、カツオブシムシ入りの野菜炒めやカレーを食べていたわけです。
その事実を知ったときにはさすがにうげえっときたのですが、「こいつらが死んでしまうほどに香辛料を食っていたとするなら、こいつらの体やフンは限りなく香辛料の成分に近かったはずだ。
つまりこいつらはほぼ香辛料と変わらなかった筈である。」と考えると、「まあいいかな。」と思えるようになり、自然と「もったいないから最後まで使おうかな。」ということになってしまって。貧乏というのはいやなものですね。

ともあれ、深夜までスッポンや虫や生き物の話題で延々盛り上がったっていうのはのは、僕にとって初めての経験でした。
スッポンはひっくり返ると大変だから背中にスプリングを付けてみようだとか、手足に小型モーターを付けてみたらどうかとか言い出したり。トリビアの泉で有名になった、何をしても死なないと言われる「クマムシ」という虫(正確には虫ではないですが)がいます。そいつが危機を感じたときにおちいる、火であぶろうが凍らせようが真空状態にしようが死なない仮死状態を、専門用語で「クリプトビオーシス」と言うらしいのですが、それをC先輩が「クリプト美容室」と聞き間違えていて、二人の専門家が散々クマムシに関するありがたい話をした後で、「でさ?でさ?それは何処にある美容室なの?」と聞いて部屋の中を真空状態にしたり。ここまでくるとみんなただの酔っ払いです。

ともかく、いろんな生き物のお話を聞きました。いいや、受講してといったほうがしっくりくるかも。僕も虫や生き物は好きでそこいらの人よりは詳しいつもりですが、やはり本職の人たちはとてもすごい。実に面白い時間を過ごしました。ただ、失礼するときに「スッポンのポンジーが骨にされないといいけど・・・」、と一抹の不安が心をよぎっていました。(norio wrote 2004 May)

つづく。超大吉旅日記その3>>

<<超大吉旅日記その1

 

copyright1997-2003(C) Kichijoji web mgazine. All rights reserved.